死んだ魚の様な日常
Posted by No Name Ninja - 2012.01.01,Sun
手を伸ばして
触れられる距離
あぁ…
全てはあの日からだ。
『インストールが終了しました』
無機質な機械音声が作業終了を伝えた。
【AI】
最終確認をしエンターキーを押す。
俺は派遣で大手ゲーム会社のプログラマーをしている。
三年前に勤めていた小さな会社が倒産し就職先が見つからないままなあなあで派遣を続けている。
ボーナスこそないが時給制なので働いただけ給料が手にはいるのでこのままでも良いかなんて惰性で再就職先も探していない。
確かに納期前は職場に缶詰状態で人間らしい生活は出来ないが、やりがいもあるし何より人間関係が良好なのが離れられない原因の一つだ。
「サンジ先輩」
データを保存し終えると同時に後ろから声を掛けられる。
「ウソップ」
前の会社では俺の後輩として働いていたウソップはこの会社に再就職をした。
職場の倒産で入社後半年で職を無くすという可哀想な奴だったが今では部署は違えど俺の上司だ。
「もう先輩は止めろよ。俺が惨めだ」
「すみませんクセが抜けなくて」
年相応に見えなくする屈託のない笑顔がとても好印象を与える。
第一印象はとても個性的な顔立ち(特に鼻)だがこの笑顔を見てしまうとそんな事はどうでもよくなってしまう。
話術に長け、嘘か本当か分からないような話を大真面目にかつ興味深く話すのだ。
その話し方が買われプログラマーを希望していたが営業に回されたのだった。
交渉術など持ち合わせてはいないがクライアントからの信頼は厚い。
「サンジさんこれから時間空いてたら久し振りに食事でも行きませんか?」
「あぁ。構わないぜ」
俺が了承の意志を示すと「良かった」とまた無邪気な笑顔を向ける。
この笑顔に俺はいつでも元気を貰っている。
正直ウソップの笑顔が見られるのならば予定が入っていても優先的にコイツと過ごすだろう。
ちょっと異常かも知れないがそれ程までにウソップと過ごす時間は楽しいのだ。
「この間見つけたんですが安くて雰囲気も良いし美味しい所なんです」
嬉しそうに店に案内するウソップは見ていて楽しい。
クルクルと変わる表情に身振り手振りが聞いているこちらを飽きさせないのだろう。
着いた居酒屋は確かに値段も安くその上しっかりとした個室で意外と隣の話し声が聞こえなかった。
「実はサンジ先輩に話があるんです」
酒が入り少し経った所でウソップは改まって話し始めた。
「なんだよ、好きな奴でも出来たか?」
堅くなった空気に少し茶々を入れてやると「残念ながら違います」と小さく苦笑いをする。
「先日営業に行った取引先がなんと前社長の息子さんが経営しているデザイン事務所だったんです」
「へ~奇遇だな。社長は?元気にしてるって?」
「えぇ。そこで丁度社長にも会ったんですが、」
そう言うと鞄から何やら一枚のCD-ROMを出した。
「なんだよこれ」
「是非おまえに託したいんだとこれを渡されたんです」
「中身は?」
「俺も気になって自宅で見てみたんですが…」
データ上の容量は有り得ないほど膨大な数値だったらしいがいざ起動してみると何も入っていなかったらしい。
「でも少しおかしいんです」
「何が?」
「クリックした途端、画面がフラッシュの様に光ってそれきり…」
「バグったんじゃねぇの?」
「俺もそうかと思ったんですが、社長の言葉が気になって」
「何か言われたのか?」
そう俺が問うと、少し顔を赤らめて唇を尖らす。
…子どもか!
「先輩、バカにしないでくださいよ!」
そう言うと目を伏せながら小さな音を発した。
「………宝の在処がしるされている、んだそうです」
宝と言ったら何になるだろう。
やはり現金以外ならば埋蔵金か何かか。
そんなものの在処を他人に伝えるだろうか。
「やっぱりからかわれてるだろ」
「でも…」
口ごもるウソップは叱られた子どものように目尻を赤く染め唇を噛みしめている。
「バカにしてる訳じゃねぇが、常識的に考えてみろよ」
ふわふわした癖っ毛頭に手を乗せ宥めるように言葉を掛ける。
「宝なんていう大層なもの、他人に教えるか?」
「そりゃ、そうですけど…」
前の会社にいたときからそうだったが、コイツはいつも壮大な夢を語り実現しようとしていた。
そんなこともあり社長とコイツは気が合っていた。前の社長は実質的な利益よりも夢だのロマンだのを求めていたからだ。
まぁそんな理由もあり倒産したと言えばそれまでだが。
未だ納得しない様子で唇を尖らせている。
「なんだよ。まだ何か気になるのか?」
そんな言葉を掛けると顔を俯かせたまま呟いた。
「別れ際に、お前とアイツならきっと大丈夫だとか言われて」
「アイツ?」
「多分サンジ先輩の事だと思います」
「オレ?」
「一緒に辞めたのって俺とサンジ先輩と他は大体社長の知り合いだったじゃないですか」
「まぁ…身内色の強い会社だったからな」
でも何で俺とコイツなんだ?
どういう理由があってそんな事を言われるのか、そこが解らなかった。
しかし、悪い気はしなかった。
「で?」
「え…」
「俺は何すれば良い?」
「え…あの、」
「とりあえず、俺とおまえで何とかするしかないだろ?」
「せんぱい…」
すがりつくような、泣きそうな目をして見つめられる。
そんな顔されたら引き受けずにはいられないだろう。
何だかんだでオレはコイツに弱いのだから。
結局CD-ROMを受け取り俺のパソコンで調べる事になった。
詳細は後日会社でと言うことになり俺たちは別れた。
型はウソップの持っているものに比べ古いが、前の社長が愛用していたものを譲り受けた物だった。
その為、きっと何か打開策が見いだせるのではないかと言う算段だ。
受け取ったCD-ROMをパソコンへ入れる。
確かに物凄い容量だったが起動はする。
アイコンをクリックし反応を待った。
すると画面一杯にデジタル文字が流れ始め物凄い起動音が鳴り響いた。
「ちょ…これは流石に、ヤバいだろ」
慌ててキャンセルボタンをクリックしようとしたが、そんなものどこにもない。
「ふっ…ざけんなよ」
そんな呟きを無視するかのようにデータは次々と読み込まれていく。
『ビー!』と言う聞き慣れない警告音と共に画面が激しく光った。
「うわっ…!」
目の奥に響くような光りが襲う。
視力が一瞬使えなくなる様な衝動に目をつぶる。
すると穏やかにも取れる小さな機械音がした。
そして目を開けると同時に
『インストールが終了しました』
無機質な機械音声が作業終了を伝える。
「…できた、のか?」
ポツリと呟くと真っ白な画面が切り替わり
─YES
というボタンがたった一つ現れた。
「おいおいおいおい」
何のYESなんだよ!
インストール完了のYESか?
怖いだろ。見たことないぞこんな説明が何もねぇダイアログ。
しかしこのままの強制終了も怖い。
…仕方ない。
壊れたらそれまでだ。型も古くなりすぎた。買い換え時なんだ。
そう自分に言い聞かせてボタンをクリックした。
『音声認識をします。名前をどうぞ』
…は?
名前?音声認識?
マイクだって接続してねぇぞ。
どうやって…
『音声認識の確認がとれない場合は終了となり、今後本ソフトはこのパソコンで起動出来なくなります。カウントダウン開始します。』
ちょ…なんだそれ!
『20…19…18…』
しかも20秒だけかよ!
クソふざけたソフト作りやがって。
なんだよ本当に!
『14…13…12』
数字はどんどん減らされていく。
もう進しかないだろ!
そうだよ。さっき諦めたばかりじゃねぇかよ。
『7…6…5…4…』
「サンジ!」
さてどうやって認識するのやら。
そう、思っているとカウントダウンは停止していて画面が切り替わった。
「え…まさか本当に…?」
マイクも無しにどうやって…
すると画面上に人物が映し出された。
「…は?」
その人物は紛れもなく…
「ウソップ…?」
『イエス、マスター』
「マスター!?」
『初めましてマスター、起動感謝します』
「は…、ぇ?」
『マスターの名前、サンジ。間違いありませんか?』
声も全く一緒だ。
どうなってんだこれ。ウソップの嫌がらせか?
『マスター?』
「え。あ…あぁ。俺の名前はサンジだ」
って何普通に返してるんだよ!
会話なんて出来るはずないだろ!?
どれだけ容量が大きくて語彙数があっても、今の技術でこんなソフトと会話だなんて…
『私のマスター、サンジ』
「え」
『手を添えて』
「は?」
『画面に手を添えて下さい』
「え??」
何をいきなり…しかも画面に手を添える意味が分からねぇ。
戸惑っていると
『私の手に触れてください』
催促するように画面の中のウソップは掌をこちらに向けた。
そんな事をしてどうなると言うんだ。
画面の中の相手に…いや画面に触れた所で接触機能なんてない。
どう考えても何も起こせないだろう。
いつまで経っても触れないからか、更に言葉が降ってくる。
『何か不都合ありますか?』
「不都合ったって…」
『大丈夫です。触れてみてください』
呟いた言葉に返すような言葉が来る。
「触れてどうなるってんだ」
『ご安心下さい』
独り言のはずだった。
まさか…
会話、している。のか?
そんな…バカな…
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